2016年8月13日土曜日

腐儒の日常(734)  加齢なるイワナ


承前


シゲユキさんが言う。 

 「70を超えたから,そろそろ行こうと思うて,お遍路はじめた」 
 「八十八ヶ所のバス・ツアーか?」 

 「いや,歩くの。 会社の仕事がないとき,畑が大丈夫なとき,見繕って歩くのよ。 まだ,十五番。徳島市内・・・」 

同じく70になるトシユキさんが応ずる。 

 「えらい元気やな。ワシは八十八ヶ所も,よう回らん」 
 「ちょっと待て。歩くのは,オマエの方が達者やろ?」 
 「古希祝いに,六甲山の縦走はやろうと思うとる。 
  足慣らしに伊勢路に行った」 
 「伊勢から熊野か?」 

 「うん,そうやけど。大阪から行った」 
 「電車で?」 

 「いや,歩いて・・・」 
 「どこから?」 
 「大阪から・・・」 


 ( ̄▽ ̄;)( ̄▽ ̄;)( ̄▽ ̄;) 


 「伊賀通って,お伊勢さんお参りして,3日かな。そのあと那智まで」 
 「1人でか?」 

 「いや,ヨメと2人で。むかしのお伊勢参りの跡が残ってて。楽しかったよ・・・」 


たしか,奥さんは2つほど姉さん女房のはずである。 


 「オマエは元探検部やから,楽しいやろ? 奥さん気の毒や」 
 「いや,普通にテクテク歩いてついてきたよ」 

うむ。10年に1回くらいしかお会いしないが,この方,結婚した20代の頃から,風貌・体型がほとんどかわらない。お母さんになったそのムスメの方が落ち着いて見える。最近の老人は,元気だね・・・。 

 「ワシは,そんな歩けんから,ジパング倶楽部にはいった。 
  会費はいるけど,この前岩手まで行ったから,もうモトが取れたよ」 
 「岩手?」 

 「これや。シメにそうめんにするから,アテにどうぞ」 




イワナである。 

 「シゲちゃん,どんだけ,沢のぼりしてるねん?」 
 「してたんやけどな。前に来たとき,越えられた岩が越えられん。 
  この川ともお別れや・・・というのを繰り返して・・・」 

普通,里の魚というのは,フナやコイであり,流れがあると,オイカワとかがいる。山の魚というと,ヤマメやアマゴ,そして,その上流にイワナがいる。イワナ釣りは山登りをともなう。 

ただし,北に行くほど,イワナがいる標高が下がる。 

 「岩手でしたら,町からちょっと山にはいったらいますね」 
 「そうや。よう知ってるな。オマエも釣るのか?」 

 「いいえ。知ってるだけです。 
  北海道まで行くと,平地の小川にイワナがいますから,まだまだ大丈夫です」 
 「その手があるなあ・・・」 

文明の進歩というものは,高齢者の自由度の向上に寄与している。「不自由だったものを自由に」,それが社会の成熟である。 





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